#analog
*教科書へのコメント [[Comments on Textbooks]] [#d35d3700]
大学など高等教育で用いられることを想定して書かれた教科書について、誤りと考えられる記述の指摘などをコメントとして掲載します。ここでのコメントは可能なかぎり執筆者または編者に知らせることにします。

率直なコメントは厳しすぎるように見えるかもしれませんが,執筆者との対立をねらっているものではありません。よりよい教育になんらかの形で貢献したいと考えるのみです。コメントするのも時間の無駄と思えるようなものは、そもそもここで扱いません。

執筆者や第三者からのリアクションは,できればご自身のウェブサイトに掲載していただいて、こちらからリンクすることにしたいと思います。場合によっては最後まで見解の相違が残るかもしれませんが、教科書はすでに流通して誰もが読める状態にあるのですから、議論をするのであれば教科書を使う人々にとって有意義なものとなるよう誰の目にも見える場でお願いいたします。

なお、以下のコメントに関する責任は[[田中克範>Katsunori Tanaka]]個人にあります。

*[[藤垣裕子:http://green.c.u-tokyo.ac.jp/~fujigaki/]]編『科学技術社会論の技法』([[東京大学出版会:http://www.utp.or.jp/]]、2005) 第9章 199-219頁 [#c62f5490]
**問題点 [#vf4be92a]
編者によって、
 ソフトウェア開発の目的や開発意図に基づいた幇助概念によって判断する日本の法理と、
 ソフトウェアの実践的な利用によって判断する米国の法理との比較を行っている。
 (199頁)
と書かれているが、実際のところこの章において法理に関する議論はなされていない。

法理に関する議論としては、開発者の逮捕後の2004年6月28日に、[[情報処理学会:http://www.ipsj.or.jp/]]と[[情報ネットワーク法学会:http://in-law.jp/]]の共催で開かれた、「Winny事件を契機に情報処理技術の発展と社会的利益について考えるワークショップ」
[[(情報処理学会:http://www.ipsj.or.jp/01kyotsu/workshop/winny/winny_workshop.html]]
[[情報ネットワーク法学会):http://in-law.jp/winny.htm]]
における、[[岡村久道:http://www.law.co.jp/okamura/]]弁護士の発表をまず知っておくべきである。

この章の執筆者は212頁において、「Winnyが価値中立的なソフトか、すなわちその価値はどう定まるのかという問題」として、「科学技術社会論においてア・プリオリに技術の価値は中立であるというタイプの『技術の中立性』は否定されている」とあるが、その部分の注58には「すなわち、社会、経済、政治、文化、などから切り離された技術固有の価値があるという議論は社会科学技術論では認められていない」とある。これでは同じことを別の表現で説明したにとどまり、結局なんら根拠が示されておらず、説明になっていない。

さらにいえば、この章自体が先にあげた岡村弁護士の議論をほぼそのまま、ただ結論のみを差し替えているように見える。以下の報道記事からも、この章の内容が岡村弁護士の議論とほぼ同じで、結論のみ異なっていることがわかるであろう。
-[[Winny問題を考える学会ワークショップ:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0406/28/news023.html]] (2004年6月28日、itmedia)
-[[Winny開発者の逮捕理由「著作権法違反幇助」は正当か!? 〜弁護士各氏語る:http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2004/06/28/3676.html]] (2004年6月28日、impress)
-[[Winny開発者逮捕は是か非か--研究者、法律家などがワークショップ開催:http://journal.mycom.co.jp/articles/2004/06/30/winny/]] (2004年6月30日、mycom)

執筆者がこの議論を知らずにこの章を書いたのであればまったくの調査不十分であり、知っていたのであれば盗用して結論だけを書き換えたとみられてもしかたあるまい。本書のこの章を読むにあたっては、これらの法学的な議論をふまえておく必要がある。

**対応 [#ue9df020]
編者に連絡(June 21, 2006)。

この本の「あとがき」(280頁)によれば、公募型プログラム[[「社会システム/社会技術論」:公共技術のガバナンス:社会技術理論体系の構築にむけて:http://www.ristex.jp/activity/koubo_shakai.html]]の[[公共技術のガバナンス:社会技術理論体系の構築にむけて:http://www.ristex.jp/activity/koubo_shakai/shakai_2001_03.html]]による成果の一部として刊行されたものとされているため、問題が仮にあった場合の対処法について問い合わせ(June 24, 2006)。[[JST:http://www.jst.go.jp/]]から回答受信(June 30, 2006)。

現時点にいたるまで、編者からの回答なし。(July 1)

**すでに教科書として採用してしまった方々のための追記 [#q2508698]
ここで問題としているのは第9章のみであることにご注意いただきたい。

この本においては[[東浩紀:http://www.hirokiazuma.com/blog/]](注44)や[[石橋啓一郎:http://ishbash.blogtribe.org/category-eec47aef1e9c9e5746fb7eaf06092e8c.html]](注46)のブログが参照されているが、いずれも開発者の逮捕に否定的な見解をとっている。ここで東の主張はしりぞけられ、後者のいう道義的責任が強調されているがが、石橋は同じブログで「今回の一番大きな問題は、この逮捕が社会が後ろ向きであることの現れの一つであるということです」と主張しており、[[別の日のブログ:http://ishbash.blogtribe.org/entry-0510ee56b1222da55ed2dc30a52e514b.html]]では「僕自身もwinny全面擁護派だと言うことを断った上で、いくつか思ったことを並べてみる」明言されており、単純に開発者の有罪などを主張するどころか、むしろ著作権制度のあり方がメディア産業大手によって独占され、保護の対象拡大、厳罰化などが強化されることを「後ろ向き」とみなし、むしろ市民に開かれた制度を追求しようとしているようである。

なお、注46には「新制度までのモラトリアム期間を確保するために、金子氏に『スケープゴート』になってもらうという考え方も成り立つ」などと基本的人権を無視したことが書かれているが、制度が整備されるまで個人の人権を抑圧してならないのは当然のことである。そして結局どのような制度が望ましいのかということについては、214-215頁において「また社会的な価値判断の問題となってしまう」とし、「司法がその判断に社会的価値を取り入れる仕組みをおくことも一考に値する」と、現に法廷で行われていることが書かれている。コメントする気も失せるが、技術と社会のあり方を考えるうえで重要なのは、基本的人権の尊重と民主主義であることを忘れるべきではない。

**同書で触れられていない関連団体 [#gf47985f]
-[[NPO法人ソフトウェア技術者連盟:http://lse.or.jp/]]
-[[金子勇氏を支援する会:http://freekaneko.com/]]
-[[壇弁護士の事務室:http://danblog.cocolog-nifty.com/index/]] 追加 --  (July 1)


*齋藤了文、坂下浩司編『はじめての工学倫理』第2版(昭和堂、2005)、168-169頁の傍注8 [#w2a460af]
**誤りの範囲と内容 [#ka556b67]
教科書の中で、
>その例としてはEMACSの作者で有名なプログラマー、リチャード・ストールマンの提唱する「コピーレフト」の原則がある。

とされているが、[[Richard Stallman>http://www.stallman.org/]]をこの文脈において例にあげるのは不適切であり、コピーレフトは「違法コピー」を助長するものではない。
**推定される誤りの原因 [#gf96d9a5]
執筆者による[[コピーレフト:http://www.gnu.org/licenses/licenses.ja.html#WhatIsCopyleft]]への理解が十分でないと考えられる。
**教科書使用上の注意 [#te241749]
[[フリーソフトウェアの思想:http://www.gnu.org/philosophy/philosophy.ja.html]]について再確認する必要がある。また、ソフトウェアにかぎらず「すべての情報」という意味で、[[Lawrence Lessig:http://www.lessig.org/]]らの[[クリエイティブコモンズ:http://creativecommons.org/]]についても把握しておく必要があると思われる。

教科書の本文中にある「もう一方の極端」は、実際に「違法コピー」を流通させている者であろう。

なお、コピーレフトはソフトウェアを配布する際に、配布を受ける側にソースコードへのアクセスを保障することを義務づけるなど条件が厳格であり、それゆえ[[オープンソース:http://www.opensource.org/]]を支持する人々から「ビジネスの世界で非現実的」との批判を受けてきたが、教科書の本文中に「現実性を欠いている」と書かれていることとは意味合いが異なる。
**関連文献 [#kb7f1211]
Andrew M. Laurent and Andrew M. St. Laurent, '''Understanding Open Source And Free Software Licensing,''' Oreilly (2004).
**対応 [#sbfd078f]
自ら担当している授業においては具体的に説明しておく。執筆者に連絡。 (April 30, 2006)

追記:執筆者より返信。指摘のとおり、次の版が出ることがあれば修正を検討したい旨。ありがとうございます。(May 8, 2006)

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