Posts tagged ‘論文’

プロの論文を読む:ソフトウェア工学編
プロの論文を読む:経営学・組織論編
プロの論文を読む:信頼性工学編
につづいて,法学に関する論文を紹介する.連載はこれで一応おわりである.

山本龍彦, 遺伝子プライヴァシーの考察:「遺伝情報」の分類と憲法的位置付け, 法政論叢, Vol. 38, No. 2, pp. 1-24, (2002)

これも論文そのものは,論文タイトルのリンク先(国立情報学研究所)よりPDFで全文を読むことができる.

文系の論文ではしばしば縦組みで出版され,この論文もそうである.本文中に英文が横を向いて挿入されている部分もあるが,そのような伝統である.もちろん,文系でも横組みの出版物はある.

ページ数24+英文要旨1ページのかなり包括的な内容であり,次のような構成となっている.

一 はじめに
二 アメリカにおける議論と「遺伝情報」の類型化
三 DNA 情報領域
(1) 「情報」としての可能性
(2) 「情報」としての限界
(3) 検討
四 DNA 獲得情報
(1) 遺伝子例外主義の立場
(2) 遺伝子例外主義に反対する立場
(3) 検討
五 DNA 指紋 (DNA fingerprint)
六 結語
(末尾に参考文献を含む註66項目,および英文要旨)

この論文は,主として法学の専門家が読む雑誌に掲載されたものであるが,「遺伝情報」という比較的新しい自然科学の領域に関する憲法学的な議論を展開したものである.内容をみていこう.

「一 はじめに」では,序論として遺伝情報の収集・利用に関する憲法的位置づけが必要であり,それが侵害された際の審査基準等について議論する必要があるという課題の設定がなされている.具体的には,遺伝情報に関する権利は,プライバシー権に関する通説である自己情報コントロール権と同様なのか,遺伝情報を従来の情報と同質のものであるのかといったことである.ここで結論がすでに述べられており,遺伝情報ないし遺伝子情報は多義的に捉えるべきもので,
1) 従来の自己情報と異なり憲法上新たな位置づけが必要な「DNA 情報領域」
2) 「プライバシー固有情報」に属する「DNA 獲得情報」
3) 「プライバシー外延情報」に属する「DNA 指紋 (DNA fingerprint)」
という3つに類型化できるとされている.
なお,この論文は憲法学的総論であって,個別具体的な議論や民事法学的な観点からの議論はしないという,課題の限定もおこなっている.

「二 アメリカにおける議論と「遺伝情報」の類型化」では,まずジョージ・アナスにより1993年に発表されたた論文などから,「遺伝情報」が他の自己情報と異なる特段の保護を要するという「遺伝子例外主義」の見解を紹介している.それに対して「遺伝情報」も他の自己情報と同等に扱うべきであるとの批判的見解があることも紹介している.
そして,アメリカにおける議論では「DNA そのもの」と,「DNA 獲得情報」の2段階で議論されているという.ただし,ここで著者は「DNA そのもの」は遺伝子として意味をなす DNA エクソン部分(DNA 獲得情報)と,遺伝的形質には影響を与えず個人の特定や親子確認に用いられる DNA イントロン部分(DNA 指紋 = DNA fingerprint)の別があり,単純な2段階の議論では不十分であるという見解も示している.

「三 DNA 情報領域」では,DNA エクソン部分について論じられている.この DNA 情報領域について次のような3段階の議論がなされている.
(1)「情報」たりうるという可能性を認めて,自己情報のコントロール対象と認識できることを重視すべきとの考えが示されている.
(2) その一方で,自己情報コントロール権の前提たる「情報」としては,3つの点において限界(本質的限界・主体的コントロール性の限界・生命倫理的観点からの限界)があるという考えが示されている.
(3) それぞれの見方を対比して,DNA 情報領域が古典的プライバシーにおける私的領域としての性質を有するとの見解を示している.また,DNA 情報領域が高度のセンシティブ性から日本国憲法第13条(幸福追求の権利)を根拠としてきた自己情報コントロール権による保護されうるかという論点があることも表明し,第19条(思想および良心の自由)による保護も検討に値するとされている.

「四 DNA 獲得情報」では,DNA 情報領域から得られる遺伝的形質に関する自己情報である.ここでは,DNA 獲得情報を独自的・例外的にあつかうべきとする立場(遺伝子例外主義)とそれを批判する見解が対比されている.
(1) 遺伝子例外主義の根拠として次の3点が挙げられている.
a) 遺伝子疾患に罹患することについての予見可能性が第三者に知られること.
b) 血縁者や類似の人種など,遺伝的近親者の間で遺伝情報が共有されることにより個人のアイデンティティが弱められること.
c) 遺伝的形質による差別やスティグマ化(レッテル貼り)に使われるおそれがあること.
(2) 遺伝子例外主義に対する批判的立場からは,それぞれの点について次のように主張されているとされている.
a) 遺伝的でない疾患についても予見可能性はあること.
b) 遺伝的近親者の健康上の利益も考慮されるべきであること.
c) 遺伝情報でない一般の医療情報もスティグマ化に使われうるものであり,DNA 獲得情報のみを例外とするのは不合理である.
(3) 双方の立場による主張を検討した結果,DNA 獲得情報に関しては他の一般的医療情報と同等のものとみなすことができるという見解がとられている.また,DNA 情報領域と DNA 獲得情報を区別するという著者の見解に対して想定される批判に,あらかじめ反論がなされている.

「五 DNA 指紋 (DNA fingerprint)」
遺伝的形質とは無関係な DNA 指紋については,遺伝との直接的関係はなく個人を識別する情報として扱われ,従来の指先の指紋と同様にプライバシー外延情報と位置づけるのが妥当との考えが示されている.

「六 結語」
著者は遺伝情報を DNA 情報領域,DNA 獲得領域,DNA 指紋に分類し,DNA 情報領域のみが従来のプライバシー概念すなわち自己情報コントロール権の枠組みになじまず,DNA 獲得領域と DNA 指紋については従来の枠組みで議論できるとの考えるに至った.異なる議論はあるかもしれないが,今後も詳細な検討を続けるとしている.最後に,遺伝情報の多義性に言及して,遺伝情報の類型化は不可欠であることが強調されている.

以上のような内容であるが,相反する意見を慎重に検討して自説を導き出すプロセスがわかる論文であるといえよう.

ところで,「遺伝情報」あるいは「情報」などに関する法学的な定義づけが議論の途上にあることもわかる.工学的な情報理論においては,クロード・シャノンによる「情報量」の定義づけがおこなわれたが,「情報」の定義はなされていない.人文・社会科学領域も含む情報学においても情報の定義については議論の途上にある.法学における学説上の議論は立法や法解釈にも影響を与えるものであり,情報学の観点からも注目すべき論点である.また,法学者・法曹家のようないわゆる文系の専門家も,自然科学や工学の発展にともなう議論・研究をしなければならないという例であるともいえる.

プロの論文を読む:ソフトウェア工学編
プロの論文を読む:経営学・組織論編
につづいて,信頼性工学の学会誌に掲載された部品の論文を紹介する.

田村高志, 宇宙開発のキーを握る部品問題, 日本信頼性学会誌:信頼性, Vol. 30, No. 5, pp. 420-425, (2008)

著者はJAXAの技術開発をになう研究者である.論文そのものは,論文タイトルのリンク先(国立情報学研究所)よりPDFで全文を読むことができる.内容は次のとおりで,冒頭に概要が付いている.

概要
1. はじめに
2. 宇宙用部品とは
3. 宇宙用部品の課題と対策
(1) 輸入部品の入手性
(2) 部品の品質
(3) 国産部品の入手性
(4) 鉛フリー化への対応
4. 課題への対応
(1) 入手性の改善
(2) 品質確保
5. まとめ
参考文献

概要の最後の部分で「本稿では,宇宙開発のキーとも言える部品問題に焦点を当て,現状の課題と将来に備えるための方策について述べる.」と書かれているとおりであるが,ここで部品と呼ばれているものは,全文を読めばわかるようにおおむね電気・電子部品である.

以下,補足説明をまじえながら節ごとに要約してみる.

第1節は,文字通りの序論である.まず宇宙開発に関する状況を説明し,ロケットや人工衛星に用いられる電気・電子部品のあり方について課題があり,今後10年間の見通しを検討するとしている.

第2節では,まずロケットや人工衛星に用いられる電子部品が特殊であり「宇宙用部品」と呼ばれること,世界の多くでアメリカの軍用規格 (MIL) にもとづく部品が使われていることを説明している.それから,「宇宙用部品」に要求される信頼性をミッション期間(たとえばロケットは衛星を打ち上げれば数時間でミッションを終え,用途によるが人工衛星はそれよりも長く使われ,宇宙ステーションはさらに長期間使われる)と電子部品・回路の先端性・複雑性によって異なることが3軸の図で示されている.また,宇宙では放射線を受けるということから,最新のマイクロプロセッサから数年遅れで耐放射線性マイクロプロセッサの開発がおこなわれていることを紹介している.また,欧州連合によって電気・電子危機への有害物質(重金属等)の使用禁止指令(RoHS 指令)により「鉛フリー化」への対応が迫られることを指摘している.さらに,「宇宙用部品」の市場規模が非常に小さく,調達が困難になってきていることと信頼性を確保することが課題であることを明らかにしている.

第3節では,実際の開発経験から4つの課題を挙げている.
(1) 「宇宙用部品」の多くがアメリカ軍用規格品であることから,部品が武器流通とみなされ,納期の遅れや技術情報の入手が困難であることなど.
(2) 一般的な半導体部品の多くがプラスチックでモールドされた形で製造されているのに対して,「宇宙用部品」の多くは古くからある金属の容器に収める CAN 封止タイプ,セラミック封止タイプであり,生産設備の老朽化などの問題があることなど.
(3) 輸入に依存しないために国内業界に協力を得られるかというと,市場規模等の問題から,厳しい状況にあること.
(4) 現在のところ「宇宙用部品」は RoHS 指令の対象外ではあるが,部品業界が鉛フリー化を進めている状況のもとでは「宇宙用部品」にも影響があること.

第4節では,それまでに挙げた諸課題が,継続的な入手ルートの確立と品質確保の2点に集約されるとしたうえで,具体的対応が述べられている.
(1) 入手性については,欧州の動きを見ながら欧州域内での,最初に開発されたオリジナル部品と互換性があるセカンドソース部品の有効活用,および重要部品については国内での継続的確保が必要であるとしている.
(2) 調達した部品の品質については「オールジャパンの体制づくり」が必要であるとし,ハードウェア的な部品実装技術の高度化や堅牢 (rubust) な設計などの技術開発が望まれるとしている.

第5節は結論である.まず調達する立場から,各種の人工衛星に対してそれぞれ適切な部品の要件を規定すること.国内の宇宙産業界による品質確保とコストダウン,および国内電子部品業界が協力しやすい環境をつくることの重要性を強調して締めくくっている.

以上みてきたように,この論文は純粋に技術的な議論ではなく,部品の生産・調達および品質に関する現状をふまえ,問題点を明確にして,業界に対する呼びかけも含めた対応策を提言するものとなっている.

プロの論文を読む:ソフトウェア工学編に続いて社会科学の分野から,チャレンジャー号とコロンビア号の二度にわたるスペースシャトル事故を例として,組織と経営責任に関する検討がなされた論文を読んでみる.

桑田耕太郎, 組織理論と経営者の責任:スペースシャトル事故の分析を通じて, 成城大学経済研究, No. 179, pp. 47-72, (2008)

論文は掲載誌タイトルのリンク先である成城大学経済学部のサイトから全文を PDF で入手できる.総ページ数は26とやや長いが,アメリカ政府による調査報告書や関連資料を使って,事故の詳細な分析がなされており,専門家でなくとも読みやすい内容となっている.内容は次のとおりである.

(序論)
1. チャレンジャー号の爆発事故
NASAの安全管理組織
2. コロンビア号の爆発事故
3. なぜ大事故が起きるまで,組織は学習しないのか?
3-1. 「安全」に関する認識の差異
3-2. 「安全空間」の概念
3-3. 組織学習の効果
4. 組織理論と経営者の責任
[註]
参考文献

要約する.

まず,序論で現代社会における組織の経営者の果たすべき役割・責任が重くなっていることを指摘し,事故調査委員会の報告書などをもとに,事故と組織的要因の関係,経営者の責任について考察するという課題設定をおこなっている.

本論第1節では,1986年にチャレンジャー号打ち上げ直後の爆発事故について述べられている.スペースシャトルの部品を製造しているメーカーの技術者は,低い気温のもとでの打ち上げ中止を勧告していたにもかかわらず,NASAが打ち上げを決行した結果,チャレンジャー号は爆発して乗組員7名は全員死亡した.打ち上げを延期させることができなかったのはNASAの組織構造にあると指摘されている.部品メーカーの経営者は技術者の意見に敏感ではあったが,最終的には大きな取引先であるNASAの意向に沿う行動をとった.

本論第2節では,2003年にコロンビア号が大気圏再突入の際に空中分解した事故について述べられている.これも乗組員7名全員死亡という惨事であった.事故の直接的原因は左翼の断熱材が破損して大気との摩擦熱で翼が高温となり破壊されたこと,そしてNASAは打ち上げ直後に断熱材破損を知っていながら対応策を講じなかったことがあげられている.このような断熱材破損は本来あってはならないことだが,実はそれまでにも断熱材破損を起こしたスペースシャトルが帰還しているということから,安全性に対するルール違反が常態化していたという.

本論第3節では,コロンビア号の事故調査報告書がNASAの組織文化にあることを紹介し,「安全」に関する認識が技術者と経営陣の間で異なっていたこと,経営陣からの無理な要求に技術者がなんとか応じて成果を出してきたことなどが指摘されている.

本論第4節は結論ともいえる.このような経営者と技術者の認識構造に違いが生じることはNASAに限ったことではなく,分業によって成り立っている組織においては必然的な特徴であるとされている.そして,経営者は組織の行動やメカニズムを理解しなければならないとしている.

参考文献のリストは,社会科学でよく用いられる「シカゴ・マニュアル」に従ったもので,著者の姓のアルファベット順(欧米人も姓をはじめに書き,ファーストネームはカンマの後にイニシャルを書く)となっている.本文中ではパーレン(=丸かっこ)の中に著者名と発行年で文献を特定できるようにしている.

さて,実はスペースシャトルの事故に関する論文・著作は非常にたくさんある.そんな中でもこの論文は,事故原因を解明するということを主目的としたものではなく,事故調査委員会などによって明らかにされたことをもとにNASAの組織について論じ,そこから一般的な組織論を展開するというものである.いわば,社会科学の学説を事例によって裏付けようという試みともいえる.

前に書いた大学における学生のレポート・論文というエントリで,「プロの論文」とされているものを「論文ではない」という指摘をしたが,ではどんな論文が「プロの論文」といえるのか? ソフトウェア工学の分野におけるプロの論文を読んでみよう.

ここでとりあげる論文は,Craig Larman and Victor R. Basili, Iterative and Incremental Development: A Brief History, Computer, Vol. 36, No. 6, pp. 47-56, (June 2003) である.ここで pp. というのは p. の複数形で,複数ページにまたがる文献を特定するために用いられる記号である.卒業論文は単著が普通だが,この論文はソフトウェア開発の歴史に触れたもので,よく読まれている有益性の高いものであるからとりあげる(Agile Alliance のページから本文へのリンクがあるようだが,これを書いている時点で www2.umassd.edu へのアクセスができないため,図書館で読むか IEEE Computer Society のサイトで入手する必要がある).

論文やレポートは誰に読んでもらうのかを意識して書かなければならない.この論文が掲載された雑誌 Computer は IEEE Computer Society の会員はみな受け取るようになっているもので,広い範囲におよぶコンピュータの専門家が対象読者である.したがって,ある程度専門的ではあるがソフトウェア工学の専門家だけを対象として書かれているわけではなく,学術論文というより技術的な解説記事という性格が強い.

内容・構成は次のように,序論と時代別の本論,そして結論へと結びつくかたちとなっている.
(Introduction) — 何について論じるのかを明確にしている
PRE-1970
THE SEVENTIES
THE EIGHTIES
1990 TO THE PRESENT
(Conclusion) — 結論
References — 参考文献リスト

この論文では独自の視点でソフトウェア開発の歴史をとらえている.ソフトウェア開発の方法として反復型開発 (interactive and incremental development, IID) が単純にウォーターフォール開発に単純にとってかわるものではなく,実は初期のソフトウェア開発でとられていた方法であることを明らかにしている.そして,ウォーターフォール開発がアメリカ国防総省の標準化によって固定化され,それによって生じた行き詰まりを打開するために再び反復型開発が用いられるようになったというわけである.

10ページの論文において45の文献が参照されている.歴史的事実や論拠を明らかにするために必要なものが選びぬかれており,十分な調査にもとづくものであることがわかる.

なお,専門家が読むことを前提とした論文では参考文献リストに記す雑誌名を略記することがしばしばある.たとえば次のようなものである.対象読者が専門家でない場合にはこのように略記しないほうがよい.
Proceedings → Proc.
Journal of Systems and Software → J. Systems and Software
IBM Systems Journal → IBM Systems J.
Communications of the ACM → Comm. ACM
IEEE Transactions on Software Engineering → IEEE Trans. Software Eng.
ACM Software Engineering → ACM Software Eng.
IEEE Annals of the History of Computing → IEEE Ann. Hist. Comput.
情報処理学会論文誌 → 情処論
情報処理学会研究報告 → 情処技報
電子情報通信学会誌 → 信学誌
電子情報通信学会論文誌 → 信学論
電子情報通信学会技術研究報告 → 信学技報
電気学会誌 → 電学誌
電気学会論文誌 → 電学論

参考文献は多ければよいというものではなく,ましてや「こんなにたくさんの文献を読みました」と自慢するためのリストでもない.ただ,確かな議論を展開するために必要なものを使えばよいのである.ウィキペディアでも,論拠がはっきりしない記述に [要出典] のタグが付けられているのを見かけるが,それと同じことである.

最後に,英語で書いてあるから読めませんという声が聞こえそうなのだが,辞書があればそれほど難しい英語で書かれているわけではないので努力してほしい.ソフトウェア開発の現場でも,あることを調べようとしたときに英語の文献しか存在しないことは珍しくないのが実態である.

卒論・レポートの書き方・ポータルサイト@卒業論文というところを見た。

とりあえず、ダメ出し。

プロの論文を見ようというページで紹介されているプロの論文であるが、これを卒業論文として提出しても0点であろう。これは「プレゼンテーション用スライド」であって論文ではないこと、そして個人の単独執筆によるものでなく無記名であること、という2点がその理由である。

まず、「論文ではない」という点であるが、論文とは文章を中心に構成するものであって図表類はそれを補うために用いられる。しかし、この「プロの論文」は、Microsoft PowerPoint で作成されており、おそらく執筆者自身も論文とは考えていないと思われるのだが、図表類が中心になっている。このようなものは、プロジェクタで投影しながら発表するための資料であって、論文とは呼ばない。

それから、大学における卒業論文や授業でのレポートは個人を評価するものであるから、原則として単独で執筆する。ところが、ここで紹介されているものは、

通商産業省機械情報産業局(電子政策課)
アンダーセンコンサルティング

という組織名によるもので、概要編に担当者の姓のみを含む連絡先が書かれているばかりである。そして本編には組織名さえ書かれていない完全無記名である。内容はどうであれ、執筆者の氏名が書かれていなければ0点である(現実には注意されて書くことになるであろうが)。ついでに社会人の常識として、公的な文書に記載する会社名は「アンダーセンコンサルティング」という略称ではなく、「アンダーセンコンサルティング株式会社」と正式名称を用いるべきである。

つづいてネット時代のお作法というページについて。日本には「著作権保護法」という法律は存在しない。明らかに著作権法のことを指しているはずなのだが、このページの執筆者はどのように調べたのか不思議である。著作物の盗用がルール違反なのはネット時代以前から同じことであるが、このページで紹介されているように、盗作に対しては相応のペナルティが課せられることを肝に銘じておくべきなのは確かである。

ところで、このページでは引用をオリジナルの文献から一字一句とりだす quotation のようにとらえているようである。引用符 (quotation mark) で括る、あるいは字下げ (indent) によって引用した部分を明示する(そのため HTML には blockquote というタグが用意されている)などのことは必要である。それはそれでいいのだが、参考文献からいちいち文章を抜き出さず、

○○は△△について××との見解を示している[文献番号]

(論文末尾に番号付きの文献リスト)

というような形での参照も含めた citation について知っておいたほうがよい。いずれにしても、オリジナルの文献が特定できるようにしておかなければならない。LaTeX に cite というコマンドがあるのはだてではないのである。

さらに、ネット時代の正しいパクリ方(メタパクリ法)紹介とあるが、論文は自分の書きたい道筋で書けばよいのであって、「メタ化」という作業自体がむしろ面倒なのではないだろうか。あまり参考にならないページだと思う。

それにしても、引用と盗用の区別ができない社会人がいる。それから、著作者に無断で引用することがいけないと勘違いして、自治体議員の海外視察報告書に「無断引用」があったというような見出しをつけて記事を書く新聞記者もいる(実際は引用ではなく盗用、あるいは丸写し)。例として、ググってコピペして海外視察報告書(奥村晴彦)など、「無断引用」でググってみればわかるが、ウィキペディアや学術論文などからの盗用が「無断引用」と呼ばれていることは珍しくない。

最後のダメ出し。有罪?無罪?パクリの程度別判定というページにある、「パクリの程度」が

一部の章や項目だけ他人のレポート・論文をコピペし、表現や助詞を多少変えて(「は」を「が」に変換等)引用を明示しなかった

というのを「グレーゾーン」としている判定表が載っているが、これはグレーゾーンではなくアウトである。

以上であるが、別のサイトレポートレポートJPを見ると、ここにもやはりレポートのパクり方として、前掲のサイトとほぼ同一内容の「メタパクリ法」が掲載されている。@卒業論文とレポートレポートJPのどちらがパクり、パクられたのか不明であるが、このようなパクリはアウトであろう。あるいは、@卒業論文のサイトにレポートレポートJPへの入口があるので、互いに関連性の強い組織が運営しているのかもしれない。

レポートレポートJPで他人のレポートを読むこと自体は別にかまわないが、「メタパクリ法」によらないのであれば、さまざまな大学のウェブサイトで公開されている卒業論文・学位論文などへのアクセスはさほど困難ではないし、所属している大学の附属図書館(利用可能であれば近隣の大学附属図書館、比較的大規模な公共図書館)の蔵書・電子化文書のほうが参考文献として有用なものが多いと考える。

追記(2009年7月9日)
「プロの論文を読む」ということで,いくつかの論文を紹介した.
プロの論文を読む:ソフトウェア工学編
プロの論文を読む:経営学・組織論編
プロの論文を読む:信頼性工学編
プロの論文を読む:憲法学編