Archive for the ‘著作権’ Category

卒論・レポートの書き方・ポータルサイト@卒業論文というところを見た。

とりあえず、ダメ出し。

プロの論文を見ようというページで紹介されているプロの論文であるが、これを卒業論文として提出しても0点であろう。これは「プレゼンテーション用スライド」であって論文ではないこと、そして個人の単独執筆によるものでなく無記名であること、という2点がその理由である。

まず、「論文ではない」という点であるが、論文とは文章を中心に構成するものであって図表類はそれを補うために用いられる。しかし、この「プロの論文」は、Microsoft PowerPoint で作成されており、おそらく執筆者自身も論文とは考えていないと思われるのだが、図表類が中心になっている。このようなものは、プロジェクタで投影しながら発表するための資料であって、論文とは呼ばない。

それから、大学における卒業論文や授業でのレポートは個人を評価するものであるから、原則として単独で執筆する。ところが、ここで紹介されているものは、

通商産業省機械情報産業局(電子政策課)
アンダーセンコンサルティング

という組織名によるもので、概要編に担当者の姓のみを含む連絡先が書かれているばかりである。そして本編には組織名さえ書かれていない完全無記名である。内容はどうであれ、執筆者の氏名が書かれていなければ0点である(現実には注意されて書くことになるであろうが)。ついでに社会人の常識として、公的な文書に記載する会社名は「アンダーセンコンサルティング」という略称ではなく、「アンダーセンコンサルティング株式会社」と正式名称を用いるべきである。

つづいてネット時代のお作法というページについて。日本には「著作権保護法」という法律は存在しない。明らかに著作権法のことを指しているはずなのだが、このページの執筆者はどのように調べたのか不思議である。著作物の盗用がルール違反なのはネット時代以前から同じことであるが、このページで紹介されているように、盗作に対しては相応のペナルティが課せられることを肝に銘じておくべきなのは確かである。

ところで、このページでは引用をオリジナルの文献から一字一句とりだす quotation のようにとらえているようである。引用符 (quotation mark) で括る、あるいは字下げ (indent) によって引用した部分を明示する(そのため HTML には blockquote というタグが用意されている)などのことは必要である。それはそれでいいのだが、参考文献からいちいち文章を抜き出さず、

○○は△△について××との見解を示している[文献番号]

(論文末尾に番号付きの文献リスト)

というような形での参照も含めた citation について知っておいたほうがよい。いずれにしても、オリジナルの文献が特定できるようにしておかなければならない。LaTeX に cite というコマンドがあるのはだてではないのである。

さらに、ネット時代の正しいパクリ方(メタパクリ法)紹介とあるが、論文は自分の書きたい道筋で書けばよいのであって、「メタ化」という作業自体がむしろ面倒なのではないだろうか。あまり参考にならないページだと思う。

それにしても、引用と盗用の区別ができない社会人がいる。それから、著作者に無断で引用することがいけないと勘違いして、自治体議員の海外視察報告書に「無断引用」があったというような見出しをつけて記事を書く新聞記者もいる(実際は引用ではなく盗用、あるいは丸写し)。例として、ググってコピペして海外視察報告書(奥村晴彦)など、「無断引用」でググってみればわかるが、ウィキペディアや学術論文などからの盗用が「無断引用」と呼ばれていることは珍しくない。

最後のダメ出し。有罪?無罪?パクリの程度別判定というページにある、「パクリの程度」が

一部の章や項目だけ他人のレポート・論文をコピペし、表現や助詞を多少変えて(「は」を「が」に変換等)引用を明示しなかった

というのを「グレーゾーン」としている判定表が載っているが、これはグレーゾーンではなくアウトである。

以上であるが、別のサイトレポートレポートJPを見ると、ここにもやはりレポートのパクり方として、前掲のサイトとほぼ同一内容の「メタパクリ法」が掲載されている。@卒業論文とレポートレポートJPのどちらがパクり、パクられたのか不明であるが、このようなパクリはアウトであろう。あるいは、@卒業論文のサイトにレポートレポートJPへの入口があるので、互いに関連性の強い組織が運営しているのかもしれない。

レポートレポートJPで他人のレポートを読むこと自体は別にかまわないが、「メタパクリ法」によらないのであれば、さまざまな大学のウェブサイトで公開されている卒業論文・学位論文などへのアクセスはさほど困難ではないし、所属している大学の附属図書館(利用可能であれば近隣の大学附属図書館、比較的大規模な公共図書館)の蔵書・電子化文書のほうが参考文献として有用なものが多いと考える。

追記(2009年7月9日)
「プロの論文を読む」ということで,いくつかの論文を紹介した.
プロの論文を読む:ソフトウェア工学編
プロの論文を読む:経営学・組織論編
プロの論文を読む:信頼性工学編
プロの論文を読む:憲法学編

Nena の歌詞と著作権というエントリで、音楽著作権の話題に触れた。

日本における音楽著作権の管理団体として日本音楽著作権協会 (JASRAC) がよく知られている。

作品データベース検索サービスを使って、アーティスト名「Nena」(前方一致)で検索してみると、107件の作品が該当するものとして出てきた。ざっと見たところバンド時代の作品ばかりのようである。アーティスト名「Kerner」で検索すると4件(ICH HANG AN DIR, LAND DER ELEFANTEN DAS, LASS MICH DEIN PIRAT SEIN, RETTE MICH — ここで LAND DER ELEFANTEN DAS と定冠詞 Das が後に付いているのは前方一致検索のためであろう。図書館のデータベースなどでも雑誌名の定冠詞は略して検索するようになっている場合がほとんどだと思う)。

ドイツにおける音楽著作権管理団体として GEMA がある。このオンラインデータベースは、JASRAC のものよりショボく、title での検索、work code with version での検索、ISWC での検索しかできない。致命的なことに、検索結果が多すぎるとどうしようもないことになる。たとえば title を DER ANFANG (私の最も好きなソロ作品のひとつ)として検索すると、

329 work(s) found, searching for: DER ANFANG
Caution: The quantity of results exceeds the limit!
Please specify your query more precisely!

という表示が出る。Please specify your query more precisely! と言われても specify できない検索システムなのでお手上げである。検索できない場合は別にするとして、title を OHNE LIEBE BIN ICH NICHTS としてみると、次のような情報が得られる。

title of version: OHNE LIEBE BIN ICH NICHTS
interested party CAE/IPI role
AUGUSTIN, ARNE 283.08.21.72 composer
CHRISTENSEN, PATRICK 258.03.30.82 composer
DILEO, PAUL T 405.49.97.43 composer
KERNER, NENA 052.25.97.84 composer
RAHY, NADER 262.88.57.31 composer
ROMAINE, VAN S 404.49.73.63 composer
KERNER, NENA 052.25.97.84 author
ARABELLA MUSIKVERLAG GMBH 041.34.16.21 original publisher
B 612 PUBLISHING GMBH 429.87.04.26 original publisher
HANSEATIC MUSIKVERLAG GMBH CO KG 406.51.25.89 original publisher
NENA MUSIKVERLAG GMBH 487.22.45.32 original publisher
UNIVERSAL MUSIC PUBLISHING GMBH 283.11.85.69 original publisher
artists
NENA,
further titles
OHNE LIEBE BIN ICH NICHTS:BERLIN VERSION
work information

work type:
vocal/instrumental: music and text
duration:
ISWC: T-802.184.701-9
instrumentation:
derivation of Work
version type: original work
arrangement of Music:
adaption of lyric:

権利関係が込み入っていることは、わかる。日本のファンサイトに歌詞を掲載する場合、Nena Kerner 個人が了承しても、利害関係者がたくさんいるので事は容易でないということであろうか。

GEMA は「YouTube、ドイツでも音楽著作権料をめぐって交渉決裂」という記事(japan.internet.com)にみられるように、YouTubeに対してペイ パービュー方式による契約を主張していたようである。

ところで、歌詞ナビというサイトに、99 Red Ballons99 Luftballons の英語版)の歌詞全文が載っているのを見つけた。コピペを防ぐためであろう、Adobe Flash が使われている。SNAIL RAMPによってカヴァーされたもののようである。

余談。
小室みつ子作詞、小室哲哉作曲の「Beyond the Time」はこのようになっている。

作品コード 081-2604-6 BEYOND THE TIME-メビウスの宇宙を越えて-
権利者 識別 信託状況 所属団体
小室 みつ子 作詞 全信託 JASRAC
小室 哲哉 識別 全信託 JASRAC
サンライズ音楽出版 株式会社 出版者 全信託 JASRAC
音楽出版ジュンアンドケイ 出版者 全信託 JASRAC
番号/区分 タイトル
正題 BEYOND THE TIME-メビウスの宇宙を越えて-

ビヨンド ザ タイム メビウスノ ソラオ コエテ

BIYONDO ZA TAIMU MEBIUSUNO SORAO KOETE

1 メビウスの宇宙を越えて

メビウスノ ソラオ コエテ

MEBIUSUNO SORAO KOETE

2 BEYOND THE TIME-メビウスの宇宙を越えて-

BEYOND THE TIME メビウスノ ソラオ コエテ

BEYOND THE TIME MEBIUSUNO SORAO KOETE

3 新機動戦士ガンダム逆襲のシャア編テーマ曲

シン キドウ センシ ガンダム ギャクシュウノ シャア ヘン テエマ キョク

SHIN KIDOU SENSHI GANDAMU GYAKUSHUUNO SHAA HEN TEE

4 BEYOND THE TIME-メビウスの宇宙を越えて-

ビヨンド ザ タイム メビウスノ ウチュウオ コエテ

BIYONDO ZA TAIMU MEBIUSUNO UCHUUO KOETE

「新機動戦士ガンダム逆襲のシャア編テーマ曲」というタイトルが付いているが、誤記であろう。「機動戦士ガンダム逆襲のシャア編テーマ曲」であって「新」は不要である(アムロとシャアのストーリーはこれで終わる)。

つい最近のことである。2009年5月18日に、ドイツのミュージシャンNenaのファンサイトNenas Feuerwerkが閉鎖された。

Nena - 31 Juli 2004 - Berlin

Nena (写真は2004年7月31日ベルリン GNU FDL)とは、1980年代に西ベルリンで活動を始めたバンドであり、ヴォーカリストの名前(フルネームでは Nena Kerner)でもある。バンドで発表した作品にはNENAと、大文字斜体で表記されていた。バンドは1987年に解散したが、Nena Kerner 自身は1989年以降ソロ活動を続け、現在はハンブルクを本拠としている。バンドの最盛期には世界ツアーがおこなわれ、何度か来日してコンサートを開いている。ソロ活動ではバンド時代の歌も歌うが、新作も多い。また、童謡のCDも発表しており、ドイツの子どもにもおそらく人気が高い。かつてのように世界的なヒットはないものの、ドイツ語圏では確固とした地位を築いている。また、2008年5月27日には、ハンブルクにNeue Schule Hamburgという学校を開いた。

Nenas Feuerwerk は日本で発表されていない Nena の詞を翻訳して公開されているという貴重なサイトであった。最近はごぶさたしているが、サイトの管理人ともメールのやり取りもあって、勉強させられることは多かった。

さて、サイト閉鎖の理由について次のような説明がなされている。

閉鎖の理由は著作権です。
訳詞については作者Nenaの承認を得ておりましたが、著作権法の関係上、掲載できないことが分かりました。
また、編曲して掲載する際にも事前に作者の承諾が必要です(著作権法27条)。Nenaが日本で活動していない以上、継続的に承諾を得ていくのは難しいと判断しました。

そこで著作権法を読んでおきたい。

第27条  著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

本件でいう著作者とは、いうまでもなくNena Kerner である。翻訳する権利は Nena Kerner にあることになる。

Nenas Feuerwerk のサイトでは、Nena から承認を得て翻訳をしていたのであるから、翻訳そのものが著作権法に抵触するとは考えにくい。日本語に翻訳された歌詞の著作権はといえば、著作権によって次のように定められている。基本的には訳者が著作権を有し、複製や頒布の権利を有するはずである。

第28条  二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

ここまでのところ、問題は特にないように思われる。あるいは、Nena が翻訳を認めなくなるとか、Nena 以外の人が作詞した作品が含まれているなどの事情があったのかもしれない。いずれにしても不思議であるし、貴重な資源が失われてもったいないのである。管理者ご本人に事情をお聞きしたいと思う。

また、日本の著作権法とともに、ドイツの著作権法も参照すべきではないかという気がするが、気がかりなのはあの翻訳が原文との対訳だったためではないだろうか。日本語訳だけを掲載することについて問題はないはずである。

いずれにしても、あのサイトを再開してほしいというのが私の希望である。

話は変わるが、Nena が歌ってもっともヒットした 99 Luftballons (邦題「ロックバルーンは99」)に関する日本語版ウィキペディアの記事には、歌詞の大要(当該記事では「内容」と表現されているが、歌詞に直接かかわる記述があるのは日本語版のみである)が掲載されている。この「内容」は、2009年5月20日 (水) 15:00時点における版と2009年5月20日 (水) 16:43時点における版のあいだでかなり変わっているが、オリジナルの歌詞を知っていれば、簡単に歌詞だとわかる程度のものである。

Wikipedia contributors. ロックバルーンは99. Wikipedia, ; 2009 5月 20, 16:43 UTC [cited 2009年6月7日]. Available from: http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%AF99&oldid=25988082.

むしろこちらのほうが問題が大きいように思われる。

追記 日本における Nena のファンのメーリングリストもある。今のところアクティビティは低いが、ドイツやアメリカのメーリングリストがspamで使い物にならなくなったのとは対照的に、現在も生きている。