Archive for the ‘航空宇宙工学’ Category

プロの論文を読む:ソフトウェア工学編
プロの論文を読む:経営学・組織論編
につづいて,信頼性工学の学会誌に掲載された部品の論文を紹介する.

田村高志, 宇宙開発のキーを握る部品問題, 日本信頼性学会誌:信頼性, Vol. 30, No. 5, pp. 420-425, (2008)

著者はJAXAの技術開発をになう研究者である.論文そのものは,論文タイトルのリンク先(国立情報学研究所)よりPDFで全文を読むことができる.内容は次のとおりで,冒頭に概要が付いている.

概要
1. はじめに
2. 宇宙用部品とは
3. 宇宙用部品の課題と対策
(1) 輸入部品の入手性
(2) 部品の品質
(3) 国産部品の入手性
(4) 鉛フリー化への対応
4. 課題への対応
(1) 入手性の改善
(2) 品質確保
5. まとめ
参考文献

概要の最後の部分で「本稿では,宇宙開発のキーとも言える部品問題に焦点を当て,現状の課題と将来に備えるための方策について述べる.」と書かれているとおりであるが,ここで部品と呼ばれているものは,全文を読めばわかるようにおおむね電気・電子部品である.

以下,補足説明をまじえながら節ごとに要約してみる.

第1節は,文字通りの序論である.まず宇宙開発に関する状況を説明し,ロケットや人工衛星に用いられる電気・電子部品のあり方について課題があり,今後10年間の見通しを検討するとしている.

第2節では,まずロケットや人工衛星に用いられる電子部品が特殊であり「宇宙用部品」と呼ばれること,世界の多くでアメリカの軍用規格 (MIL) にもとづく部品が使われていることを説明している.それから,「宇宙用部品」に要求される信頼性をミッション期間(たとえばロケットは衛星を打ち上げれば数時間でミッションを終え,用途によるが人工衛星はそれよりも長く使われ,宇宙ステーションはさらに長期間使われる)と電子部品・回路の先端性・複雑性によって異なることが3軸の図で示されている.また,宇宙では放射線を受けるということから,最新のマイクロプロセッサから数年遅れで耐放射線性マイクロプロセッサの開発がおこなわれていることを紹介している.また,欧州連合によって電気・電子危機への有害物質(重金属等)の使用禁止指令(RoHS 指令)により「鉛フリー化」への対応が迫られることを指摘している.さらに,「宇宙用部品」の市場規模が非常に小さく,調達が困難になってきていることと信頼性を確保することが課題であることを明らかにしている.

第3節では,実際の開発経験から4つの課題を挙げている.
(1) 「宇宙用部品」の多くがアメリカ軍用規格品であることから,部品が武器流通とみなされ,納期の遅れや技術情報の入手が困難であることなど.
(2) 一般的な半導体部品の多くがプラスチックでモールドされた形で製造されているのに対して,「宇宙用部品」の多くは古くからある金属の容器に収める CAN 封止タイプ,セラミック封止タイプであり,生産設備の老朽化などの問題があることなど.
(3) 輸入に依存しないために国内業界に協力を得られるかというと,市場規模等の問題から,厳しい状況にあること.
(4) 現在のところ「宇宙用部品」は RoHS 指令の対象外ではあるが,部品業界が鉛フリー化を進めている状況のもとでは「宇宙用部品」にも影響があること.

第4節では,それまでに挙げた諸課題が,継続的な入手ルートの確立と品質確保の2点に集約されるとしたうえで,具体的対応が述べられている.
(1) 入手性については,欧州の動きを見ながら欧州域内での,最初に開発されたオリジナル部品と互換性があるセカンドソース部品の有効活用,および重要部品については国内での継続的確保が必要であるとしている.
(2) 調達した部品の品質については「オールジャパンの体制づくり」が必要であるとし,ハードウェア的な部品実装技術の高度化や堅牢 (rubust) な設計などの技術開発が望まれるとしている.

第5節は結論である.まず調達する立場から,各種の人工衛星に対してそれぞれ適切な部品の要件を規定すること.国内の宇宙産業界による品質確保とコストダウン,および国内電子部品業界が協力しやすい環境をつくることの重要性を強調して締めくくっている.

以上みてきたように,この論文は純粋に技術的な議論ではなく,部品の生産・調達および品質に関する現状をふまえ,問題点を明確にして,業界に対する呼びかけも含めた対応策を提言するものとなっている.

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プロの論文を読む:ソフトウェア工学編に続いて社会科学の分野から,チャレンジャー号とコロンビア号の二度にわたるスペースシャトル事故を例として,組織と経営責任に関する検討がなされた論文を読んでみる.

桑田耕太郎, 組織理論と経営者の責任:スペースシャトル事故の分析を通じて, 成城大学経済研究, No. 179, pp. 47-72, (2008)

論文は掲載誌タイトルのリンク先である成城大学経済学部のサイトから全文を PDF で入手できる.総ページ数は26とやや長いが,アメリカ政府による調査報告書や関連資料を使って,事故の詳細な分析がなされており,専門家でなくとも読みやすい内容となっている.内容は次のとおりである.

(序論)
1. チャレンジャー号の爆発事故
NASAの安全管理組織
2. コロンビア号の爆発事故
3. なぜ大事故が起きるまで,組織は学習しないのか?
3-1. 「安全」に関する認識の差異
3-2. 「安全空間」の概念
3-3. 組織学習の効果
4. 組織理論と経営者の責任
[註]
参考文献

要約する.

まず,序論で現代社会における組織の経営者の果たすべき役割・責任が重くなっていることを指摘し,事故調査委員会の報告書などをもとに,事故と組織的要因の関係,経営者の責任について考察するという課題設定をおこなっている.

本論第1節では,1986年にチャレンジャー号打ち上げ直後の爆発事故について述べられている.スペースシャトルの部品を製造しているメーカーの技術者は,低い気温のもとでの打ち上げ中止を勧告していたにもかかわらず,NASAが打ち上げを決行した結果,チャレンジャー号は爆発して乗組員7名は全員死亡した.打ち上げを延期させることができなかったのはNASAの組織構造にあると指摘されている.部品メーカーの経営者は技術者の意見に敏感ではあったが,最終的には大きな取引先であるNASAの意向に沿う行動をとった.

本論第2節では,2003年にコロンビア号が大気圏再突入の際に空中分解した事故について述べられている.これも乗組員7名全員死亡という惨事であった.事故の直接的原因は左翼の断熱材が破損して大気との摩擦熱で翼が高温となり破壊されたこと,そしてNASAは打ち上げ直後に断熱材破損を知っていながら対応策を講じなかったことがあげられている.このような断熱材破損は本来あってはならないことだが,実はそれまでにも断熱材破損を起こしたスペースシャトルが帰還しているということから,安全性に対するルール違反が常態化していたという.

本論第3節では,コロンビア号の事故調査報告書がNASAの組織文化にあることを紹介し,「安全」に関する認識が技術者と経営陣の間で異なっていたこと,経営陣からの無理な要求に技術者がなんとか応じて成果を出してきたことなどが指摘されている.

本論第4節は結論ともいえる.このような経営者と技術者の認識構造に違いが生じることはNASAに限ったことではなく,分業によって成り立っている組織においては必然的な特徴であるとされている.そして,経営者は組織の行動やメカニズムを理解しなければならないとしている.

参考文献のリストは,社会科学でよく用いられる「シカゴ・マニュアル」に従ったもので,著者の姓のアルファベット順(欧米人も姓をはじめに書き,ファーストネームはカンマの後にイニシャルを書く)となっている.本文中ではパーレン(=丸かっこ)の中に著者名と発行年で文献を特定できるようにしている.

さて,実はスペースシャトルの事故に関する論文・著作は非常にたくさんある.そんな中でもこの論文は,事故原因を解明するということを主目的としたものではなく,事故調査委員会などによって明らかにされたことをもとにNASAの組織について論じ,そこから一般的な組織論を展開するというものである.いわば,社会科学の学説を事例によって裏付けようという試みともいえる.

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泳ぐ宇宙飛行士のつづき.

ガガーリンについては,とてつもなくよく調べている人がいる.「地球は青かった」という言葉についてはとくに丹念に調べられている.

日本人宇宙飛行士による有名な言葉として,秋山豊寛による有名な言葉があげられるのではないだろうか.TBSという民間放送局の社内で選抜されて宇宙飛行士となり,ソユーズTM-11でミール宇宙ステーションへ移乗して宇宙滞在,先にドッキングしていたソユーズTM-10で帰還.地球へのテレビ中継が始まって第一声が,

これ,本番ですか?

である.ジャーナリストらしく考えられたユーモアともとれるが,本心だったのかもしれない.彼はTBSを退職して農業を営むようになったが,宇宙飛行士としての自覚をもったまま地上で活動を続けているようにみえる.

この際なので,秋山豊寛が日本人初の宇宙飛行士であるかどうかということについて見解が分かれているようなので整理しておく.秋山豊寛は日本人として最初に宇宙飛行をしたが,それは宇宙船の「乗客」としてであって宇宙飛行士としてではないという見解について.彼は星の街で正規の宇宙飛行士 (космонавт) として正規の訓練コースを修了して宇宙船に搭乗したので,日本人初の宇宙飛行士ということに間違いはない.それよりも前に,宇宙開発事業団(現在は組織統合されてJAXA)の毛利衛向井千秋土井隆雄がNASAの宇宙飛行士(あるいはミッションスペシャリスト)の有資格者になってスペースシャトルに搭乗する予定であったが,チャレンジャー号の爆発事故によりスペースシャトル計画自体が大幅に遅れ,結果として最初に宇宙飛行をした日本人宇宙飛行士は秋山豊寛ということでおしまい.

それから,ガガーリンは地球を見ていないという説があるらしい件.このような回答をした人がいるので,それを支持する.

この流言のきっかけは、2000年3月にNHKが日本国内に放送したアメリカ製作のドキュメンタリーです。… ボストークには光学窓があるのでガガーリンは地球の蒼さが見えたでしょう。(回答者:abyssinian)

この番組は見ていないが,たしかに窓はあって地球を視覚でとらえることができたはずである.ガガーリンが「神はいなかった」と言ったとか言わなかったとかいう話に興味はないのだが,アポロ15号で創世記の石 (Genesis Rock) と呼ばれる鉱物を採集してきたジェームズ・アーウィンはキリスト教の聖職者になった.

前のエントリでNHKのドラマふたつのスピカのキャストが若いと書いたが,ふりかえってみればガガーリンが宇宙を飛んだとき,彼は27歳.訓練機による墜落事故で死亡したのは34歳のときである.若い.

「無限のかなたへ」(日本語吹き替え:所ジョージ)という台詞で有名なトイ・ストーリーのバズ・ライトイヤーには,モデルとなる人物が存在する.月面に立った二人目の地球人,バズ・オルドリンである(写真提供:NASA).
Buzz Aldrin on the Moon

オルドリンのウェブサイトにあるFAQでは,

Did Buzz Aldrin inspire the Disney character Buzz Lightyear?

という問いに対して明確に “Yes” と答えている.ともあれ,バズ・オルドリンとバズ・ライトイヤーは良好な関係にあるらしい.

バズ・ライトイヤーは「飛んでいない,落ちているだけだ」とウッディに言われたりしているが,自分のことをスペースレンジャーの一員だと信じていた.しかし,自分がおもちゃであることを知って落ち込む.しかし,なかなかどうして活躍し,独立したテレビシリーズスペース・レンジャー バズ・ライトイヤーの主役をつとめたり,国際宇宙ステーションへの飛行を実現したりしている.

ところでバズ・オルドリンは,アポロ11号の月面着陸によって世界的な注目を集めたが,あわせてうつ病,アルコール依存症,離婚という苦労を味わうこととなった(Robert Epstein, Buzz Aldrin: Down to Earth, Psychology Today, 2001.).今はそうしたことを乗り越えて幸せなのではないかという気がする.

前述のチャレンジャー号 (STS-51-L) 爆発事故は,順調であるかのように見える打ち上げからこの動画のように突然の爆発で,宇宙飛行士7名全員死亡という衝撃的なものであった.この事故などをきっかけに,アメリカの大学工学系学部で Engineering Ethics の授業がおこなわれるようになった.また,大江健三郎にとっておそらく初めてのSF小説治療塔(岩波書店,1990,講談社文庫,2008)にもこの事故に関する描写がある.

ちょっとだけ,日本人宇宙飛行士について「それから」ではなく「それまで」を見ておこう.山崎直子「宇宙戦艦ヤマト」のアニメに影響を受け,大きくなったら 「先生」や「ディズニーランドのお姉さん」になりたいと思っていたらしいが,「きっかけはチャレンジャー号の事故」とも書かれている.星出彰彦は,「銀河鉄道999 」,「宇宙戦艦ヤマト」,「スタートレック」などを見て宇宙にあこがれていたという.古川聡小さいころは「ウルトラセブン」になりたいと本気で思っていた(注:「あこがれはウルトラマン」という見出しは誤りである)とまでいう.野口聡一は,宇宙を舞台にしたアニメなどは見ていたが,それだけではまだ宇宙飛行士になりたいと思っておらず,高校生の時にスペースシャトルの初飛行を見て「これからは普通の技術者でも宇宙で活躍できる」と考えたそうである.オタクだらけのようにも見えるが,子どもが普通見ていそうなものを見ているだけだと思う.

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